Global Point Of Care
82歳女性。嘔吐を伴う腹痛のため在宅医療センターに往診依頼があった。3日前から左下腹部に間欠的な腹痛と頻回の嘔吐がある。口渇を訴える。昨日、少量の水分を飲んだのみで、ほとんど経口摂取ができていない。排便と排ガスはみられない。排尿回数の減少を認める。既往歴は高血圧。喫煙と飲酒の習慣はない。
意識は清明であるが、ややぼんやりしている。身長152cm、体重42kg。体温37.2℃。脈拍112/分、整。血圧98/54mmHg。呼吸数20/分。SpO2 92%(室内気)。普段の血圧は130/60mmHgくらいである。
四肢末梢は冷たく、頸静脈は虚脱している。口腔内は軽度の乾燥あり。腋窩も乾燥している。腹部は全体に膨隆し、注意深く観察すると腹壁に腸の蠕動を観察できる。金属性腸雑音を聴取する。打診では腹部全体が鼓音を呈する。肝臓と脾臓は触知せず。圧痛は認めない。
バイタルサインに注目すると、収縮期血圧が心拍数より低い数値になっている。これを「バイタルの逆転」と呼ぶ。プレショックの状態である。ショックの鑑別診断が必要である。
ショックの鑑別診断
名称 | 代表疾患 |
循環血液量減少性ショック(hypovolemic) | 脱水、出血 |
閉塞性ショック(obstructive) | 肺塞栓、心タンポナーデ |
血液分布異常性(distributive) | 敗血症、アナフィラキシー |
心原性(cardiogenic) | 心筋梗塞 |
ショックまたはプレショックの患者に対しては、最初に四肢末梢を触り温かいかどうかを確認することが大切である。温かければ、血液分布異常性ショックが考えられる。四肢末梢が冷たければ、次に頸静脈を確認する。虚脱していれば、循環血液量減少性ショックである。頸静脈が怒張していれば、心原性ショックまたは閉鎖性ショックを示唆する。
頻回の嘔吐があり経口摂取が減少している。口渇を訴え排尿回数が少なくなっていることから、脱水により循環血液量が減少していることが推察される。腹部が膨満し排便と排ガスが見られない。腹痛と頻回の嘔吐は腸閉塞の症状かもしれない。腸閉塞は腹部手術後の癒着が原因となることが多いが、この患者には腹部手術の既往はない。
身体診察で脱水を示す最も良い所見は、腋窩の乾燥である。腋窩に指を入れて乾燥状態を確認する。舌や口腔粘膜の乾燥、くぼんだ目、ツルゴールの低下も参考となる。高齢者ではシワがもともと多いので、ツルゴールの確認は注意を要する。鎖骨下の皮膚をつまむのがよい。親指と示指を用いて皮膚をつまんだ後、皮膚がテント状に3秒以上盛り上がっていれば陽性と判断する。
腹部は膨満し金属性腸雑音を聴取するので、身体所見上も腸閉塞が疑われる。腹壁に腸の蠕動を確認できるとき、腸閉塞と診断できる(感度6.3%、特異度99.7%)2)。
Abbottポイントオブケアテストのi-STAT®️1アナライザーを用いて、患者宅で血液検査を行なった。CHEM8+カートリッジを用いれば、ナトリウム、カリウム、クロール、ヘマトクリット、ヘモグロビン、クレアチニン、尿素窒素の測定が2分で可能である。
血液検査の結果はNa 127mEq/L、K 3.5mEq/L、Cl 83mEq/L、Ht 33%、Hb 10.8g/dL、クレアチニン1.3mg/dL、尿素窒素(BUN)39mg/dLであった。 低ナトリウム血症と貧血、BUN/クレアチニン比の増大(39/1.3=30)が認められる。身体診察で循環血液量の減少が推察されるので、低ナトリウム血症は脱水が原因であろう。高齢者の貧血で多い原因は悪性腫瘍による消化管出血である。腸閉塞を起こしているので、大腸がんを疑う。脱水ではBUN/クレアチニン比が20を超えることが多い3)。
脱水があるため、末梢ルートを確保して生理食塩水の点滴を開始した。救急車を依頼し、総合病院に搬送した。腹部CT検査と下部消化管内視鏡検査からS状結腸がんによる腸閉塞と診断された。
*このケーススタディーの内容は、執筆者の経験/意見/ガイダンスであり、他の施設での結果とは異なる場合があります。ここで示された医療行為に関してアボットは責任を持つものではありません。
i-STAT®1アナライザー 医療機器:12B1X00001000020
i-STAT®1 カートリッジ CHEM8+:医療機器12B100001000026、体外診断用医薬品:12E1X800009000005
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